ああ、私も女優になりたい!

もう20年近く前、まだ中学生のときになにかのきっかけで知った伊沢蘭奢というむかしの女優さんのこと。子どもだったわたしの心に、強烈な印象を植え付けました。

女優X―伊沢蘭奢の生涯 (文春文庫)

女優X―伊沢蘭奢の生涯 (文春文庫)

↑いまは文庫本しかないみたい。わたしはハードカバーの本を持ってます。

明治40年、蘭奢は津和野の、寛政年間に創業された薬種問屋に嫁いだ。跡継ぎの男子を産み、何不自由ない大家の若妻の座にありがながら、新婚時代に東京でふれた演劇への憧れが抑えがたく胸にふくらんでくる。わが子が六歳の春、彼女はすべてを振り切って東京へ出奔した─。

中央から遠く離れた津和野で育った女性が、結婚までしたというのに、女優になりたくて、夫や子どもを捨てて上京したのです。その思いの強さに当時のわたしはいたく感動して、すてき!と単純にあこがれてしまいました。でも、この年になって改めて考えてみると、当人はそれでいいかもしれないけど、残された人々には大騒動だったのかもしれません。大家に嫁いだお嫁さんが、家を捨てて飛び出しちゃうんだから… いまならなんとかなるかもしれないけど、時代はまだ明治ですからねぇ。

彼女の残された写真はとてもすくなくて、ほとんどの人はご存じないと思います。でもね、とってもきれいな人だったんですよ。新劇の女優になるくらいですから。そして彼女が伝説になっていくのは、実質的に女優活動をしていたのが十年ほどで、わずか三十台の若さで亡くなってしまったからかもしれません。佳人薄命ということばどおりの一生でした。
島根・物語の舞台
↑津和野町郷土館には蘭奢の写真などの資料が展示されています。